みなさんこんにちは、テックデザインの河野です。
先日お客様の施設でSTP(Shielded Twisted Pair:シールド対より線)ケーブルが原因と思われるネットワーク障害を経験しました。原因特定のための詳細な調査は実施できなかったのですが、状況から判断すると不適切に施工されたSTPケーブルが原因と思わざるを得ない障害でした。
今回はこの障害対応をきっかけにSTPケーブルの適切な施工方法について調べてみました。
障害発生:レントゲン機器と通信ができない
18:30頃にお客様のクリニックのレントゲン技師さんから「夕方からレントゲンの調子が悪く、通信ができたりできなくなったり不安定だったのが、18時を過ぎたあたりから全く通信ができなくなってしまったのでなんとかして欲しい。」というサポート依頼の電話が入りました。

電話でのヒアリング内容やLANマップなどの遠隔調査から判明した内容をまとめると、
- SWX2100-16G、SWX2100-8G、PC、レントゲン機器はLANマップで見えている
- ルーターとPCは疎通できる
- ルーターとレントゲン機器間の疎通ができない
- レントゲンPCとレントゲン機器間の通信ができない
- PCやレントゲン機器を再起動しても改善しない
- SWX2100-16G/8Gを再起動しても改善しない
という状況でしたので、L2までは問題がなさそうな雰囲気です。遠隔ではこれ以上できることがなさそうだったので、急ぎ現場に向かいました。
障害発生箇所でSTPケーブルを発見
21時頃に現場へ到着するとレントゲンメーカーのサービスの方が既にSWX2100-8Gを家庭用の8ポートスイッチへ交換を完了された後で、ひとまず障害は復旧していました。取り外されたSWX2100-8Gにハードウェア故障がないか確認するため全ポートで通信チェックをしましたが、全て正常に通信ができたのでハードウェア故障が原因ではなさそうです。
暫定的に設置された家庭用のスイッチをSWX2100-8Gに戻してみると正常に通信でき、不具合を再現することはできなかったのですが、このときにSWX2100-16GとSWX2100-8G間を接続するLANケーブルがSTPケーブルであることに気が付きました。念のためFLUKEでSTPケーブルをチェックしましたが断線等の異常はありませんでした。


STPケーブルの適切な施工は難しい
STPケーブルのシールドは TIA/EIA-568-B.1-2 に準拠した適切な接地を行う必要があります。
具体的には主に以下となります。
1. シールドケーブルは破れや不連続があってはならない
シールドに不連続点が存在するとそこがアンテナとなりノイズが流入してしまいます。
障害発生箇所のLANケーブルを調べると下図のようになっていました。

- STPケーブルとUTPケーブルが延長コネクタで接続されている
- SWX2100-16G/8Gともに接地されていない
STPケーブルの両端で不連続が発生している状況でした。
適切な施工とするためは次の図3のようにシールドの不連続をなくす必要があります。

2. シールドケーブルは両端を並列接地する
図3のようにシールドの不連続をなくしたうえで、図4のようにシールドケーブルの両端を並列で接地する必要があります。図5のように両端を直列で接地することは推奨されていません。

SWX2100-8G/16GのLANポート自体はシールドケーブルに対応しており導通が確認できるのですが、電源ケーブルは2ピンメガネケーブルで本体にアースターミナルがないため接地することができません。適切にSTPケーブルを使うにはSWX2210シリーズなどのアースが取れる機種を使う必要があります。
ヤマハスイッチ現行機種でアースが取れないのはこの2機種のみで、ルーターでは同様に2ピンメガネケーブルを採用しているRTX830が現行機種で唯一アースが取れない機種となっています。1世代前のRTX810は2極コンセントながらもアースターミナルがあったのですが、利用率が低いなど何らかの意図があってRTX830では省略されたのではないかと思います。
なおメーカー想定外の使い方で完全に自己責任の非推奨ですが、テスターを当てたところRTX830のLANポートと筐体のネジは導通していたので、工夫すればRTX830でアースを取ることは不可能ではなさそうです。
3. 機能用接地
シールドの連続性と両端の並列接地するだけではまだ不十分で、情報機器を安定的に動作させるための「機能用接地」も必要になります。機能用接地はゼロボルトの基準電位を確保すると同時に、情報機器自体から発生するノイズを接地に逃がす目的で用いられます。
機能用接地では全ての接地箇所が同じ電位になっている必要があります。これを実現するには建物の設計段階で接地も設計する必要があるため、一般的な建物で後から機能用接地を施工することはあまり現実的ではありません。
3ピンコンセントなどに使われている一般的なアースは「保安用接地」と呼ばれ、漏電による感電や火災を防ぐために用いられるもので機能用接地とは異なります。接地場所全てが必ずしも同じ電位になっているとは限らないため、3ピンの電源ケーブルでアースを取っていてもシールドケーブルで求められる機能用接地にはならないので注意が必要です。
推定される障害原因
状況証拠からの判断ではありますが、今回の通信障害の原因は、
- シールドの連続、両端の並列接地、機能用接地のいずれも満たされていなかったため、STPケーブルがアンテナとなってノイズを集めてしまい、シールドにたまったノイズの多寡が通信状態の不安定さに影響した可能性が考えられる
- ノイズ源はX線だけでなく、近くを通っていた太い電源ケーブルや、レントゲン室のすぐ隣にあるエレベーター用の動力電源やエアコン用の200V系統が考えられる
- STPケーブルのシールドにたまっていたノイズはスイッチ交換時にケーブル挿抜で人が触れたことで逃がされ、症状の再現ができなかったのではないか
と結論付けました。
理想的にはエビデンス付きで原因を特定をしたいところですが、ノイズを定量的に測定するには高度な専門的な知識と測定器が必要なようで、費用対効果に見合わないため見送りました。代替案としては、パケットキャプチャを行ってTCPのエラー再送率などを平時と比較できる環境を作れば手がかりや予兆がつかめそうな気がします。
実施した再発防止策
低コストですぐに行える対策として、まずはスイッチ間を接続する「STPケーブル+延長コネクタ+UTPケーブル」の組み合わせをUTPケーブル1本に置き換えてシールドケーブルをなくしました。
ノイズの影響が気になるところですが、レントゲン室内のLANケーブルは全てUTPケーブルだったので、電源ケーブルと併走しないように気を付ければX線はあまり気にしなくて良さそうです。
本コラム執筆時点でLANケーブル交換から10日ほど経過しましたが、今のところ同様のトラブルは発生していません。評価期間としてどのくらいが適切なのかは分かりませんが、数年以内に同様のトラブルが発生しなければ原因はSTPケーブルとみなしても良いのではないかと考えています。
さいごに
最近は大型家電量販店でSTPケーブルを目にする機会が増えてきましたが、一般的な家庭やオフィスでシールドケーブルが必要になるような強いノイズ源はまれでしょうし、本来のシールド性能を発揮できるように施工するのはDIYではかなり難しいと思います。不適切なSTPケーブル施工は逆効果になってしまうので、ギガビットイーサネットのノイズ対策としては電源ケーブルとLANケーブルは並べて配線しないようにして、全てUTPケーブルで配線するのが無難だと思います。
参考資料
Question? 2 LANケーブルのノイズ対策のために接地について教えてください | 通信興業株式会社
https://www.tsuko.co.jp/pdf_qa/no22_qanda_2.pdf
TIA/EIA-568-B.1-2 Commercial Building Telecommunications Cabling Standard(Page 32)
https://www.csd.uoc.gr/~hy435/material/Cabling%20Standard%20-%20ANSI-TIA-EIA%20568%20B%20-%20Commercial%20Building%20Telecommunications%20Cabling%20Standard.pdf
TIA-607-B Generic Telecommunications Bonding and Grounding (Earthing) for Customer Premises
http://www.raqi.ca/~ve2rae/tech_hf/grounding/tia_standard.pdf
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