みなさんこんにちは、テックデザインの河野です。
先日SWX2210PからPoE給電する設計でネットワークカメラの設置工事をしたのですが、LANケーブル用の空配管が想定よりも大幅に長く、カメラまでのケーブル長が93mになってしまい正常に動作するかどうかヒヤヒヤするという出来事がありました。
幸いネットワークカメラは無事に動作したので良かったのですが、規格上100mまで給電できるとは言え、減衰を考慮すると規格上限ギリギリの施工には不安が残ります。何mまでなら問題なく通信ができるかを検討する場合は、主に「利用環境温度」「電線の種類」「電線の太さ」を考慮して設計する必要があります。
温度による影響
まず、規格上の最大長100mは利用環境温度20℃でのケーブル性能であることを知っておく必要があります。JIS X 5150には次のように記載されています。
使用温度が水平ケーブルへ与える影響
通常、ケーブル及び接続器具は20℃での性能に基づき設計されている。そのため実際に利用する環境温度が高い場合はケーブル及び接続器具への温度の影響を考慮する必要がある。
引用元:JIS X 5150:2004 7.2.2.2 解説2 使用温度が水平ケーブルに与える影響
電線は温度が高くなると抵抗率が大きくなり、電気が通りにくくなる性質があります。JIS X 5150では、利用環境温度が20℃よりも高くなる場合シールドケーブルは1℃あたり0.2%、非シールドケーブルは20〜40℃の範囲で1℃あたり0.4%、40〜60℃の範囲で1℃あたり0.6%ケーブル長を減じるとしています。
この温度上昇による挿入損失(Insertion Loss/減衰)の増加率をまとめたのが下記の表1になります。
例えば、空調設備のない場所を考慮して真夏の利用環境温度を最大45℃とした場合、UTPケーブルの最大長は11%(0.4% x 20 + 0.6% x 5)短くなるという計算になります。
環境温度 | シールドケーブル 挿入損失増加率 | 非シールドケーブル 挿入損失増加率 |
---|---|---|
20℃ | 1.00 | 1.00 |
25℃ | 1.01 | 1.02 |
30℃ | 1.02 | 1.04 |
35℃ | 1.03 | 1.06 |
40℃ | 1.04 | 1.08 |
45℃ | 1.05 | 1.11 |
50℃ | 1.06 | 1.14 |
55℃ | 1.07 | 1.17 |
60℃ | 1.08 | 1.20 |
表1 環境温度による挿入損失増加率
引用元:JIS X 5150:2004 25. 温度上昇と挿入損失の関連性
電線の種類による違い
単線と比較してより線は電気が流れにくく挿入損失が多くなるため、PoE環境では単線のLANケーブルで施工するのが基本です。フラットケーブルは薄くしなやかにするために細い導体のより線が使われることが多いので、PoE機器には使わないようにしましょう。
CAT5eとCAT6で単線とより線の挿入損失を比較すると、CAT5e/CAT6とも全ての周波数でより線の挿入損失が約20%多くなります。

表2 単線とより線の挿入損失比較
データ参照元:通信興業株式会社 LANケーブル電気特性表
https://www.tsuko.co.jp/electric.html
電線の太さ
電線は太いほど電気が流れやすく、細いほど電流は流れにくくなります。ケーブルの太さを表す表記はAWG(American Wire Gauge/米国標準ワイヤーゲージ)とSQ(Square mm/平方ミリメートル)の2種類があります。AWGは数字が小さい方が太いケーブル、SQは数字が大きい方が太いケーブルになります。
同じ長さのLANケーブルであれば、24AWG(直径0.52054mm)よりも23AWG(直径0.57404mm)のケーブルの方が、0.2SQ(0.2m2)よりも0.5SQのケーブルの方が電流は流れやすくなります。
LANケーブルの仕様はケーブルの被覆に直接印字されていることが多いので、PoE用として適しているかは容易に確認することができます。ケーブルによっては型番だけの表記だったり、カテゴリー表記しかなかったり、全く表記がない場合もあります。下の写真2のケーブルは UTP / 24AWG / CAT5e / 単線であることが読み取れます。

写真2 LANケーブルの仕様表記例
ケーブル長93mは問題のない長さなのか
以上を踏まえて、冒頭の93mのLANケーブルに問題はないのか確認してみましょう。LANケーブルの仕様と動作確認時の環境温度は以下のとおりです。
- LANケーブル仕様:UTP / 24AWG / CAT5e / 単線
- 動作確認時の環境温度:30〜35℃
- PoEスイッチからネットワークカメラまでは1本のLANケーブルで接続
UTPケーブルは35℃だとケーブル長を6%減じるため、この利用環境での最大長は94mとなりギリギリ基準内に収まっています。しかし、動作が不安定になり始める環境温度の閾値は37.5℃と予想されるため、ほとんど余裕がない状態と言えます。
今後動作が不安定になるようなことがあれば、中間点にPoEインジェクタを設置してリンク長を短くすることが有効な対策となりそうです。
PoE動作状況を確認する
PoEスイッチにログインしてPoE給電状況を確認します。show power-inline interface
コマンドを実行すると、93mのLANケーブルが接続されているPort 9は802.3af Class 2で動作していることが確認できます。
SWX2210P-28G>show power-inline interface port1.9
PoE Status
Available Power : 370000 mW
Used Power : 49700 mW
Remaining Power : 320300 mW
Guard Band : 7000 mW
Operation Status: Enable
PoE Interface port1.9
Powered device type : n/a
PoE admin : Enable
Priority : Low
Detection status : Powered
Current power consumption : 2800 mW
Powered device class : 2
Powered allocated : 7000 mW
Powered pairs : Signal (Alternative A)
次に show frame-counter
コマンドでPort1.9のフレームカウンターを確認します。エラーパケットは発生していないので、カメラは正常に動作していると考えて良さそうです。
SWX2210P-28G>show frame-counter port1.9
Interface port1.9 Ethernet MAC counters:
Received:
packets :911232
octets :786854101
total-good-packets :911232
total-error-packets :0
drops :20
broadcast-and-multicast-packets :67814
64octet packets :27810
65-127octet packets :296187
128-255octet packets :59048
256-511octet packets :24989
512-1023octet packets :18873
1024-MAXoctet packets :484325
Transmitted:
packets :2063489
octets :241547524
total-good-packets :2063489
total-error-packets :0
drops :0
broadcast-and-multicast-packets :1553248
64octet packets :835082
65-127octet packets :1000623
128-255octet packets :3772
256-511octet packets :221674
512-1023octet packets :2288
1024-MAXoctet packets :50
ここではCUIでPoE給電状況とフレームカウンターを確認しましたが、LANマップからGUIで確認することも可能です。SWX2310Pシリーズはスイッチ単体で「LANマップLight」を持っているので、ヤマハルーターがない環境でのPoE運用管理を強力にサポートしてくれます。死活監視によるPoE機器の自動再起動もできるので、PoEをラクに運用したい方は導入してみてはいかがでしょうか?
まとめ
LANケーブルの最大長について解説をしてきましたが、50mを超える長距離のLANケーブルを使用する際はやはり設置前に動作テストをしておくのがベストです。ケーブルの最大長については、知っておくとPoEスイッチの設置場所やPoE機器の配置に無理がないか評価しやすくなるので、無理のない配線設計やトラブルシューティングに役立ちます。
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